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本ページに掲載の情報は、2023年9月現在の内容です。

【第26回】オルガノイド
 ~臓器を模倣した三次元構造体が拓く大きな可能性~

「オルガノイド」(organoid)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。「organ=臓器」+「-oid=~もどき・~のようなもの」からなる造語です。「臓器もどき」、「ミニ臓器」などと呼ばれることもあり、人体の外側(試験管など)で臓器の一部を再現したものです。今、オルガノイド研究が急速かつ著しい発展段階を迎えており、ライフサイエンスの世界で非常にホットな分野の一つになっています。今回は、この「オルガノイド」が未来に拓く大きな可能性にスポットを当てたいと思います。

「臓器もどき」っていうくらいだから、臓器と同じはたらきをするの? そんなものが作れるの?

現在作成されている主なオルガノイド

「オルガノイド」研究は、2009年のNature誌への消化管オルガノイド作製報告(報告者は日本人)等が契機となって急速に発展し、現在までに、右図のように、多くのオルガノイドが作製されています。
「ミニ臓器」という言葉が示す通り、平面(二次元)ではなく、臓器を模した三次元立体構造となっており、サイズ的には現在のところ「ミニ」、すなわちヒトの臓器と比べると非常に小さく、わずか1mm程度しかありません。しかし、この「ミニ臓器」は、ヒトの生体の臓器に近い機能を有している優れものなのです。オルガノイドは、まさにライフサイエンスの進歩(生体の解明や技術の発展)が生み出した大きな結晶の一つであるということができます。

※網膜オルガノイドや心筋細胞シートなど単純構造のオルガノイドには数cmの大きさのものもあります。

【事例】大日本印刷が作製したミニ腸

*写真提供:大日本印刷株式会社

【事例】大日本印刷が作製したミニ腸
  • 長径1.5mm以上の球状の構造をした細胞(他社製より大きめ)
  • ヒトiPS細胞から試験管内で創り出したオルガノイドで、生体の腸に近い機能を有する

なぜ、そんなすごいものを作れるようになったの?

オルガノイドの作製には、“2つのカギ”が揃う必要がありました。第一のカギは「iPS細胞」、第二のカギは「三次元培養技術」です。この両方が揃って初めて、単なる細胞の集まりから臓器へと導くブレイクスルーが生じ、オルガノイドの作製が可能となりました。

オルガノイドの作製を可能にした2つのキー・テクノロジー【iPS細胞と三次元培養技術】

オルガノイドは、どんなふうに使われているの?

ここがスゴイ!くすりの開発におけるオルガノイドの活用メリット ●実際の生体または臓器より小規模で数多く用意することができるため、低コスト・短期間で実験できる ●「ヒト由来細胞」から作製したものであるため、実験動物よりも精度の高い実験が可能 ● 実験動物を使わずに実験ができる(倫理問題の解決へ)

オルガノイドを使えば、ヒトの臓器の構造や機能を体外で再現することができるため、創薬(治療薬の開発や臨床応用)への活用に対する期待が高まっています。
たとえば、くすりの開発では、くすりのたね(候補)が実際にくすりになるのは何万個に1個だといわれています。前臨床試験(動物、細胞実験等)で何万個もの候補を評価し、絞り込まれた候補(効果が見られたもの)を臨床試験(ヒトである患者に投与)で試験し、1個だけがくすりとして承認される、ということです。オルガノイドは、この「前臨床試験」で活用することによって、非常に効率的な実験を行うことが可能となり、従来に比べ新薬の開発スピードの大幅アップを期待することができます。

オルガノイドって、これから、いろんなことに役立ちそうだわ!

人体の外側に疑似的な体内(臓器のはたらき)を精巧に作ることができるわけだから、その可能性は計り知れない!

ヒトの体内で起こっている現象は、当然見えない。だからといって、これまでの技術では単一細胞でしか試験できなかったから、体外での確認も難しかったんだ。それが、オルガノイドの登場で一変したんだ。たとえば、腸管からくすりが吸収される仕組みを調べるとき、オルガノイドを使えば、体外で詳細に調べることができる。実に画期的なことだ。下の事例①のような創薬における薬剤評価ツールとしての使い方が、今のところは最も現実的で、急速な広がりを見せつつある。
でも、オルガノイドの可能性には、計り知れないくらいの大きさがある。たとえば、がん等の疾患の治療法開発(事例②)、個別化医療への応用(事例③)、さらには、発生生物学等の研究(事例④)など、多彩な方面で積極的な研究が進められている。
今後、より高度な機能を備えたオルガノイドが開発されていけば、活用の幅はさらに広がっていくはずだ。

オルガノイドの可能性 事例1:薬剤評価ツールとして 事例2:疾患の理解と治療法の開発 事例3:個別化医療への応用 事例4:発生生物学の研究ツールとして

オルガノイドはまだまだ発展途上の技術です。たとえば、多くの臓器は複数種類の細胞で構成されていますが、作製したオルガノイドに重要な機能をもつ細胞種が欠けてしまっている場合もあり、臓器まるごとの機能を備えた完璧なオルガノイドはまだ限られます。でも、わずか15年ほどでこれほどの発展を遂げてきたことを考えると、やがては、各種研究への活用を越え、ヒトへの移植といった究極の域へと到達するなど、飛躍的な発展を遂げ、医療の未来に大きな影響を与えることに疑う余地はありません。

※網膜オルガノイドや心筋細胞シートなど単純構造のオルガノイドでは、これらを活用した再生医療が既に実用化しつつあります。

ミニ腸、肝臓モデル、がんモデルなどオルガノイドの作製や研究でも、コスモ・バイオの商品・サービスが活躍しています。