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本ページに掲載の情報は、2023年3月現在の内容です。

【第25回】抗体医薬品
 ~バイオの技術で進化するくすり~

はるか昔から人々は木や草花、虫、鉱物といった自然のなかから、長い時間をかけてくすりを見いだしてきました。近代になると、科学技術の発達とともに自然のなかにあるものから有効成分を抽出して化学合成することでくすりを創るようになり、今ではこの「化合物医薬品」がくすりの主流になっています。そして現在、“バイオ技術の力”でくすりの歴史に新たなページが刻まれようとしています。「抗体医薬品」の登場です。今回は、 バイオ医薬品の一つである「抗体医薬品」をひも解いていきます。

くすりって、すごく役に立つけれど副作用が心配。「抗体医薬品」はどうなの?

2021年度 世界の医療用医薬品 売上高ランキングTOP10に占める抗体医薬品の割合(抗体医薬品:リウマチ(自己免疫疾患)、がん、乾癬・クローン病・潰瘍性大腸炎)

「化合物医薬品」は、早くて高い効果を発揮する一方で、副作用が起こりやすいという弱点があります。アレルギー反応、複数のくすりの飲み合わせ、決まった用量を超えた服用などによる副作用は、注意すれば避けられるものですが、くすりの成分が患部以外のところに作用して起こる副作用は、避けがたい大きな課題です。
この課題を解決へと導きつつあるのが、 “バイオ技術の力” です。今、バイオ技術を用いてヒトの体内にある成分(酵素やホルモンなど)を体外で大量に生産しくすりにする「バイオ医薬品」が次々に誕生しています。もともと体内にあるような成分であり、従来の化合物医薬品に比べて、思いもよらない副作用の発症が少ないという特徴があります。
世界初のバイオ医薬品は、1982年にアメリカで承認されたインスリンです(主に糖尿病の治療に使用)。それまでは動物から抽出し利用していたインスリンですが、バイオ技術でヒトのタンパク質を「つくる」ことができるようになったのです。これを機にバイオ医薬品の開発技術は急速に進化し、当初はインスリンのような“簡単な形のタンパク質”しかつくれなかったバイオ技術は、今や抗体のような“複雑な形のタンパク質”までつくれるようになりました。「抗体医薬品」の誕生です。右図のように、既にさまざまな病気を治療するための抗体医薬品が多数開発されています。

抗体って免疫の力で異物をやっつけるんでしょ?!それがどうしてくすりになるの?

抗体医薬品は、体内の異物(がん細胞、ウイルスなど病気を引きおこす原因となっている物質)を見つけてやっつける抗体の仕組みを利用したくすりです。たとえば、正常な細胞にはなく、がん化した細胞にはある目印(がん細胞特有の抗原)にだけ結合する抗体を、バイオ技術によって体外で大量につくり、抗体医薬品として患者の体内に投与します。そう-すると、抗体医薬品が、がん細胞だけをやっつけてくれるのです。
従来の化合物医薬品に比べ、抗体医薬品には、副作用が起きにくいという特徴に加え、開発期間が短い場合があるなど、多くのメリットがあります(下表)。
しかし、課題も少なくありません(下表)。最先端のバイオ技術に対応した製造設備が必要なため、製造コストが高く、ひいては医療費の高額化につながります。また、抗体は化合物医薬品に比べて分子サイズが大きいという特徴からくる課題があります。さらに、化合物医薬品に比べ品質が変わりやすい(品質管理が重要)という課題もあります。くすりを利用する患者さんやその家族の立場から考えると、まだまだ日常的に気軽につかえるくすりになっていないため、是非とも解決したい課題ばかりですが、こうした課題を解決するような次世代型の抗体医薬品も続々開発されてきています。

抗体医薬品による異物撃退のイメージ:抗体医薬品が、がん細胞の抗原だけに結合し、がん細胞の活動を抑制(通常、1つの抗体は1つの抗原にのみ結合)

次世代型の抗体医薬品って、どんなふうに進化しているの?

遺伝子工学やタンパク質工学などの技術を加えて、より優れた機能をもった抗体をつくるんだ!

通常の抗体は、結合できる抗原は1種類で、また抗原に結合したあとは役目を終えて分解・排除される。これに対し、1つの抗体で2種類の抗原と結合できるもの(事例①)、何度も繰り返し使えるもの(事例②)、さらには、全身への影響が強く投与が難しい薬物(化合物医薬品)を抗体にくっつけて抗原まで運ぶことができるもの(事例③)まで、通常の抗体の機能を超えた抗体医薬品が、世界中で精力的に開発・製品化されているんだ。
これに加えて、分子サイズの大きさの問題や品質管理の難しさなどを克服するような抗体医薬品の研究も進んでいる。たとえば、VHH抗体(事例④)という、ラクダ科動物にみられる分子量の小さな抗体をくすりにする研究が期待されている。温度変化に対しても安定的で、製造方法も従来サイズの抗体と比べて容易だ。もしかしたら、通常の抗体医薬品では難しい経口投与のくすりも開発できるかもしれない。VHH抗体は、つい最近認可されたくすりが誕生した。くすりとしての実用化が促進されれば、これまで以上にさまざまな疾病に対する治療薬の登場が期待されるよ。

既に実用化がはじまっている次世代抗体医薬品技術の例:1つの抗体で2種類の抗原と結合できる抗体(バイスペシフィック抗体)、何度も繰り返し使える抗体(リサイクリング抗体)、抗体・薬物複合体
今後ますます実用化が期待される次世代抗体医薬品技術の例:抗体の低分子化(VHH抗体)

抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品は、現状では製造コストがかかり、医療費も安価とはいえませんが、製造方法の研究や製造が容易な抗体医薬品の研究も世界中で行われています。誰一人取り残さない医療を目指した日々の研究の結果、抗体医薬品は もっともっと身近なものになっていくかもしれません。

コスモ・バイオは、VHH抗体関連の研究・開発のサポートに向け、技術導入を行いました。
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