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本ページに掲載の情報は、2022年3月現在の内容です。

【第23回】超生命体
 ~ヒトと腸内細菌の不思議な関係~

私たちのからだの中は、生まれたときには基本的には無菌ですが、その後さまざまな機会で菌を獲得し、3歳ごろまでには腸内細菌の種類がほぼ決まるといわれています。どうやら生命活動には細菌との共生が関係しているようです。今回は、宿主であるヒトと、そこに住む細菌との不思議な共生関係によって成り立っている「超生命体」(=ヒトのからだ)を、腸内細菌を中心にひも解いてみたいと思います。

「超生命体」ってはじめてきいたけど、何?

「超生命体」は、ノーベル賞受賞学者であるジョシュア・レーダーバーグ博士が提唱した、『人間はヒトの細胞と体内に生息する細菌とで構成されている』という考え方です。実は私たちのからだには細胞の数を遥かに超える数の細菌が住み着いています。しかも数ある細菌種の何でも良いわけではなく、いわば「えらばれた」細菌たちなのです。近年、これらの細菌の研究が進み、私たちと共生関係にある細菌のはたらきがわかってきました。ヒトはそれ自身だけでは生きられず、細菌と共生することで生命活動を行うことができるのです。そのため、ヒトの生命・健康を考えるうえでは、細菌も含めた状態、つまり「超生命体」としてとらえることが重要だという概念が近年急速に広まっています。

細菌が住み着いている場所と細菌の種類・数

ヒトとは… ヒト細胞+約60兆個 腸内細菌=約600兆個 約660兆個の集合体「超生命体」

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(注) 研究が進んでいる腸内細菌以外にも、今後、ヒトに生息する多様な細菌のヒトの健康へのはたらきが明らかになっていくと、「超生命体」として集合体に加えるべき細菌の数は、もっともっと増えていくのかもしれません。

細菌は、ヒトにとってどう重要なの?バイキンじゃないの?

最も研究が進んでいるといわれる腸内細菌との共生関係を見ていきましょう。たとえば、ヒトが食物繊維を摂ることは、腸内細菌(特に善玉菌)が好むエサを与えることであり、その結果、善玉菌が増えて腸内環境が整い、からだの中から健康を維持・増進することにつながります。また、腸内細菌は、ビタミンK(傷口からの出血を抑制するはたらき)など、ヒトがつくれない栄養素をつくりだしてくれたり、そのほかにも下表のように、腸のバリアー機能を高めたり免疫細胞を活性化したりしてくれます。
これに対し、腸内細菌叢(腸内フローラ※)のバランスが乱れた状態だとどうなるでしょう。腸内細菌がエサを食べてつくりだす代謝物質の一部は、腸管から吸収されて血液を介して全身を巡るため、バランスの乱れた腸内フローラからつくりだされる代謝物質は、大腸炎や大腸がんなど腸に直接関係する病気だけでなく、糖尿病や動脈硬化などの代謝疾患、アレルギーを代表とする免疫疾患など、さまざまな全身性疾患の引き金にもなってしまいます。ヒトの健康はまず腸内細菌の健康から。ヒト細胞と細菌の集合体としての「超生命体」の視点から考えていく時代がはじまっています。

腸内細菌の主な役割(はたらき)

腸内細菌の主な役割腸内細菌の主な役割:腸内フローラのバランスを整えることで健康を維持する、腸のバリアー機能を高める、免疫細胞を活性化する

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※ 腸内フローラとは:多くの細菌が私たちの腸内で種類ごとに棲み分けて生息している様子から、“お花畑”に例えて「腸内フローラ」と呼ばれています。

腸は脳からの指令がなくても独立して活動ができる一方、朝おきると便意をもよおしたり、ストレスを感じるとおなかが痛くなったりします。また、腸内フローラが整っているとからだや気分がすっきりしたりと、脳と腸は相関関係にあるといわれています。さらに、腸内細菌が放出する細胞外小胞(菌からのメッセージを託した入れもの)を介して脳の機能に影響を及ぼすという研究発表もあり、注目を集めています。

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「超生命体」で健康を考えるってどういうこと? どんな研究がされてるの?

ヒト細胞の視点だけではなく、ヒト細胞と腸内細菌の集合体の視点から、
くすりや食品成分を開発・評価するってことだよ。

「超生命体」の視点からのくすりや食品成分の開発・評価は、いろいろな部位に共生する細菌の中でも特に「腸内細菌」について研究が進んでいるんだ。たとえば、次の例のように、既存のくすりや食品成分のなかには腸内細菌に影響を与えてしまうものもあって、その結果ヒトの健康にさまざまな悪影響をおよぼすことがわかってきている。そういうことが起こらないようにするために、いろんな研究が進められているんだ。

また、持っている腸内細菌の種類や割合は、人種や居住地域、食生活等にも影響を受けて変化するし、もっというと一人ひとりでも異なるんだ。日本人にあうくすりの開発、個々人にあう治療方法の開発など、近年注目されている「個別化医療」(テーラーメード医療)にもつながっていく。「超生命体」の視点での研究には、とても大きな可能性があるといっていいよね。

くすりや食品成分がヒト腸内細菌におよぼす悪影響と研究事例

くすりや食品成分がヒト腸内細菌におよぼす悪影響と研究事例

「超生命体」の視点からの解析や研究は、まだ始まったばかりです。細菌は、全身の皮膚や呼吸器系、消化器系、泌尿器系などさまざまな粘膜に常在していますが、まだ、腸内や口腔内でのはたらきの一部が見えてきた状況に過ぎません。今後多くの解析・研究が進むことで、「超生命体」というヒトの健康に対して、新しい答えを見い出していける、そんな期待が膨らみます。

腸内細菌の基礎研究にも、コスモ・バイオの受託サービスや製品が活躍しています。「腸内細菌が作り出す細胞外小胞(EV)シリーズ」「腸内環境改善研究シリーズ」
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