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本ページに掲載の情報は、2021年9月現在の内容です。

【第22回】ドラッグリポジショニング
 ~既存薬を使って新しいくすりを創る取組み~

近年、「ドラッグリポジショニング」という手法によるくすりの開発が増えてきました。最近では、新型コロナウイルス感染症の治療薬の早期開発を巡って、「レムデシビル」や「アビガン(ファビピラビル)」などのくすりの名前とともに、「ドラッグリポジショニング」という言葉を同時に耳にするケースも増えたのではないでしょうか。今回の特集では、くすり(ドラッグ)を再配置する(リポジショニング)とは、どのようなことであり、どのような可能性を秘めているのか、見ていきたいと思います。

ドラッグリポジショニングって何? どうしてほかの病気の治療に使えるの?

「ドラッグリポジショニング」とは、簡単にいえば、既存のくすり(承認薬)や開発中のくすりを転用して、あらたな疾患の治療薬として開発する方法のことです。なぜそんなことができるのか?それは、多くのくすりは、目的とする一つの症状だけにピンポイントで作用するのではなく、どうしても目的以外の複数のところにも作用してしまうからです。この目的以外の作用をうまく利用すれば、ほかの疾患の治療につなげることができます。目的以外の作用は、副作用として出てしまうものもありますが、予期していなかった効果が認められるケースもあり、これまでも偶発的な発見によってドラッグリポジショニングが行われた例が数多くあります。

偶発的な発見によってドラッグリポジショニングが行われた例

下痢を伴う腸疾患の治療薬

「ラモセトロン」というくすりは、制吐剤として開発されましたが、便秘の副作用がありました。この副作用を逆手にとって、下痢を伴う腸疾患の治療薬が開発されました。

育毛剤

「ミノキシジル」というくすりは、高血圧の治療薬として開発されましたが、発毛効果が認められたことから、発毛剤が開発されました。

ドラッグリポジショニングには、どんな利点があるの?

従来の新薬開発の流れと比較すると、ドラッグリポジショニングでは、基礎研究の一部や前臨床試験、第相の臨床試験など、多くの工程を省略することが可能となります(下図参照)。それは、ヒトでの安全性や体内動態(くすりが体の中でどのように動き、変化していくか)などが既に確認済みだからです。そうした基本的な特徴から、ドラッグリポジショニングには非常に多くの利点があります。立場別に見ると、製薬企業にとっては、低コストでの開発により収益性の向上が期待でき、患者にとっては、早期での新薬供給に期待が持てます。また、医者にとっては、安全性が担保されているため安心して患者に処方することができます。さらに、国にとっても、ドラッグリポジショニングは医療費抑制につながる開発手法だといえます。
こうした多くの利点から、近年、ドラッグリポジショニングが、偶発的な発見からではなく、明確な狙いをもった戦略的な治療薬の開発として推し進められています。

従来の新薬開発とドラッグリポジショニングの流れの比較

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ピンチアウトで全体をご覧いただけます。

戦略的なドラッグリポジショニングが行われた例

新型コロナウイルス感染症の治療薬

エボラ出血熱の治療薬として開発中の抗ウイルス薬「レムデシビル」は、一本鎖RNAウイルスに対する活性が見られる治療薬で、コロナウイルスにも活性が認められることから、新型コロナウイルス感染症治療薬として厚生労働省が特例承認しました。

ドライアイの治療薬

胃炎・胃潰瘍治療薬として開発された「レバミピド」は、ムチン(粘液の主成分)の産生を促進することから、ムチンの減少で引き起こされるドライアイにも改善効果ありと認められ、点眼液が誕生しました。

※そのほか、さまざまな研究成果が次々と報告されています。

ドラッグリポジショニングには今後、どんな成果が期待されているの?

ドラッグリポジショニングは、有効な治療法が確立されていない病気の治療薬の開発に、いくつもの光明をもたらすかもしれない!

多くの科学者がこれまで、長い歳月を費やしながら膨大な研究成果を積み上げてきた。また、医療の現場でも、実際にくすりを使用し、たくさんの実績情報を蓄積してきたんだ。そうした情報が今、「化合物(くすりの候補物質)ライブラリー」や「臨床データ」、「論文情報」として集積されている。たとえば、「化合物ライブラリー」は、国、研究機関、企業、あるいはそれらの協働など、さまざまな単位で整備が進んでいる。日本でも、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が展開する事業では、約30万種類もの化合物ライブラリーを会員企業に開放しているんだ。

症例が少ない希少疾患もiPS細胞で症例を再現できるようになり、ドラッグリポジショニング手法とかけあわせたくすりの開発が進んでいる。また、従来のような製薬企業が主体となるくすりの開発だけでなく、医師(アカデミア)が主体となって治験を進めたり、ドラッグリポジショニングを戦略とするバイオベンチャー企業も増えてきたりと、創薬の方法もどんどん広がっているんだ。新型コロナウイルス感染症の治療薬を含め、がんや認知症、そのほか希少疾患など、まだ治療法が見つかっていない病気の治療薬の早期開発に大きな期待が持てるよね。

ビッグデータ(科学者による研究成果の積み重ね)とデジタル技術(ICT:情報通信技術 + AI:人工知能)により、ドラッグリポジショニングによる創薬の飛躍的な可能性が拡大

現在、治療法や治療薬がない病気は700種類以上あるといわれています。これまで希少疾患は症例が少なくくすりの開発がなかなか進みませんでした。しかし、ドラッグリポジショニングの手法を使うことで、希少疾患向けのくすりの開発が進むことも期待されます。ドラッグリポジショニングは今後、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念にも合致する医療の新たな可能性を広げてくれるかもしれません。

コスモ・バイオでは、ドラッグリポジショニング研究にお使いいただける試薬や受託サービスをご提供しています。たとえば、米国FDAが承認済みの既存薬(化合物)ライブラリーや、糖尿病治療薬の開発に有効な細胞、スクリーニング受託サービスなど、さまざまな面からドラッグリポジショニング研究をサポートします。
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