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【第21回】ゲノム編集
 ~近未来の医療は、ゲノム編集技術によって大きく変わる?!~

昨年10月、2020年のノーベル化学賞にゲノム編集の研究者2人(ドイツの研究機関とアメリカの大学)が選ばれました。ゲノム編集の画期的な手法を開発したことが評価されての受賞ですが、この新技術の発表(2012年)から僅か8年でスピード受賞となったことからも、その功績の大きさ、今後の社会に与えるインパクトの大きさをうかがい知ることができるでしょう。今回の特集では、この技術が持つ大きな可能性、特に、医療分野に開かれた大きな可能性の扉について、見ていきたいと思います。

「ゲノム編集」の画期的な手法って、なにがすごいの?

1996年、「ゲノム編集」の技術が発見され、大きな可能性の扉が開かれました(第一世代)。これまで不可能だった、ゲノム中の狙った部分だけを正確に操作(=編集)することができるようになったのです。そして、2010年には、より使いやすいツール(第二世代)が開発されました。しかし、第一世代・第二世代の技術はともに、どの研究室でも手軽に利用できるものではありませんでした。

そして2012年、大きな転機が訪れました。今回ノーベル化学賞を受賞した新技術「CRISPR/Cas9」(クリスパー/キャスナイン)の誕生です(第三世代)。新技術のカギは、ゲノムの狙った位置にくっつく「guide RNA」。この「guide RNA」は安く簡単に作ることができるため、すべての基礎研究者は誰でも、簡便かつ効率的にゲノム編集を行うことができるようになり、基礎研究分野においてゲノム編集が一挙に普及していきました。

わずか25年前まではゲノムの特定部分を狙いうちで切断(=編集)するなど、とてもできないことでした。これがCRISPR/Cas9の誕生でほんの十数年で飛躍的な進化を遂げ、今やライフサイエンス研究に欠かせない技術となりました。ここまで革新的な技術は他に例がないといわれるほどです。ゲノム編集には正確なゲノム配列がわかっていることが重要で、2003年にヒトゲノムが解読されたように、さまざまな生物のゲノム解読が容易におこなえるようになったことも、ゲノム編集が急速に広まるきっかけになりました。

ゲノム編集の進化

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「ゲノム編集」によって、私たちの生活はどのように変わるの?

たとえば食糧分野では、「交配」や「突然変異」を利用した品種改良のほかに「ゲノム編集技術」を利用することにより、狙った機能をもつ部分を改変できるため、短時間で効率的に品種改良がおこなえるようになります。近い将来、ゲノム編集技術が織りなす多くの効用を、私たちは、生活のあらゆるシーンで身近に感じているかもしれません。
また、ほかにも大きな期待が寄せられているのが、医療分野への応用です。治療・診断・予防など、病を解決へと導くための極めて強力な手段として、多くの研究が進んでいます。

ゲノム編集技術には、アイデア次第で無限の可能性が! 食料分野、基礎研究、資源(工業利用)、医療や疾病研究への応用が可能

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私たちが毎日口にしている食品。国内で初めて流通が認められた「ゲノム編集食品」第一号は、高栄養価トマト(筑波大学が開発)です。2021年春から家庭菜園の苗として提供が始まり、2021年秋からは生産者への種の本格販売が始まる予定です。来年(2022年)には、高栄養価トマトがスーパーマーケットや八百屋さんの店頭を賑わせているかもしれません。

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医療分野では今、「ゲノム編集」技術の応用は、どこまで進んでいるの?

「ゲノム編集」は、遺伝子治療の分野で「次世代の技術」と期待されている。
日本を含め、世界中で研究活動が活発におこなわれているんだ。

医療分野では、近年、遺伝子治療の研究開発が盛んにおこなわれているんだ。米国・欧州・日本で承認された遺伝子治療は現在10品目を超えている。しかも、臨床開発の段階にある研究は世界で千件以上あって、新しい治療法が続々と登場しつつある。そんな注目の遺伝子治療において、「次世代の技術」として期待されているのが「ゲノム編集」なんだ。治療する場所を正確に狙えるゲノム編集ツール(CRISPR/Cas9ほか)がいくつも登場してきたことで、今、ゲノム編集による遺伝子治療の研究が本格化してきている。

日本における新規ゲノム編集技術開発の状況

「ゲノム編集」技術を応用した遺伝子治療は、まだ実用化には至っていないけど、医療の現場に登場するのは、もう時間の問題だと思うよ。

遺伝子治療における2つの方法

ある遺伝子が変異を起こしてしまい、それが病気の原因となっている場合、その変異を正常に戻せば病気は治る。こんな病気には、ゲノム編集技術を使った遺伝子治療が極めて有効だといわれている。遺伝子治療には、体内で細胞の遺伝子を改変する方法(生体内治療)と、細胞をいったん体外に取り出して遺伝子を改変してから体内に戻す方法(生体外治療)の2つの方法がある。後者の方が、遺伝子改変の確認がより正しくできるため、研究も進んでいる。アメリカでは、既に臨床段階に進んだ治療法もあるんだ。

「ゲノム編集」技術を応用した遺伝子治療事例 ●筋ジストロフィー(患者の細胞からiPS細胞を作り、ゲノム編集によって原因遺伝子を正常遺伝子に置き換えた後、そのiPS細胞から筋肉細胞を作って患者に移植するという研究開発がおこなわれている。) ●エイズ「HIV感染症」(ゲノム編集によってエイズウイルスが認識するタンパク質がつくられないようにする治療方法の研究がおこなわれている。)

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コスモ・バイオのゲノム編集技術活用支援

ゲノム編集技術の発展によって、私たちの生活は確実に豊かになり、多くの難病もやがて克服することができるようになるでしょう。しかし、画期的な技術だからこそ、同時に、安全性や生命倫理が担保されなければなりません。WHOや厚生労働省によるゲノム編集に関する規制づくりも進んでいます。未来に向けて明るい扉を開くためにも、ライフサイエンスの歩みには、「急ぎ過ぎない」ことも大切なポイントだといえそうです。

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