サステナビリティ

世界の科学・生物実験

2006年度 第3回 公開講座応援団

和歌山工業高等専門学校 公開講座レポート

平成18年10月14日(土)、和歌山Big愛5階会議室にて中学生を対象に、公開講座「世界の化学・生物実験 DNA World:遺伝子の操作」が開催されました。 私たちの全てをコードしている遺伝子。それは細胞という小さな容器の中の小さな核という場所に保存されています。そんな遺伝子を目でみて操作することが可能となった現在。日々発展し続けるバイオテクノロジーの世界、最新の技術に実際に触れることで、科学の面白さを知ってもらいたい。。そんな思いからはじまった、和歌山工業高等専門学校が行う公開講座「世界の科学・生物実験」は今回で2回目。科学に興味を持つ22名の中学生が集まりました。学校では行われていない専門的な実験器具を使った、バイオテクノロジー実験を通して、“科学”に対する興味は深まったのでしょうか?その様子を公開講座レポートにまとめました。

実験1

DNAを見てみよう!

「DNAって何だろう?」。小さいとか細かいということはわかるけど、どんなものか実際に自分の目で見た事がある人は多くないでしょう。しかし、実際に私たちのカラダの中に必ず存在しているDNAです。自分の目で見てはじめてわかり、実感してみてはいかがでしょうか?
本講座では、サケの精巣(いわゆる白子)を用意しました。ご存知の通り、精巣は精子を製造する器官なので、DNAがたくさん存在します。一体どのようなDNAが出現するのでしょうか?いよいよ実験スタートです。
DNA抽出にはコスモ・バイオ(株)の「教育用実験キット(DNA抽出キット)」を使いました。
サケの精巣を1cm角に切って、蒸留水を加えて薬さじですりつぶします。すりつぶしたサケの精巣をろ過し、その精巣懸濁液にいろんな試薬を加えると、DNAが含まれる無色透明の液体が出来上がります。
その無色透明のDNA溶液にエタノールと塩を加えると・・・・なんとDNAが“白い糸”のようになって目で見ることができるのです。DNAには「ガラスにくっつく」性質があるので、ガラス棒を使ってそのDNAを巻き取ります。巻き取ったDNAをピンセットで掴めた時は感動の声が上がったようです。

実験2

DNAを切ってみよう!

「DNAを切るってどういうこと?」 “DNAを切る”ということは、図工のように糸や紙をカッターやハサミで切るのとは訳が違います。DNAを切るには「制限酵素」と呼ばれる特殊な酵素を使って処理を行います。 先生にDNAを切るということの説明を受けて、実験開始です。本実験では、「教育用キット(DNA切断キット)」を用いました。この実験で、重要な鍵を持つのは試薬の分量。料理でも大切なように、実験でも分量は大切です。ちょっと間違えば、正しい反応は起こりません。ここで、受講生の頭を悩ませたのが「マイクロリットル」という体積。1mlの1/1000という微量の体積は未知の体験です。初めて実感する「マイクロリットル」を量り取るのは「マイクロピペット」という道具です。「本当にこれで合ってるのかな~?」と、不安もあったようですもあったようですが、みんなで力をあわせてがんばりました。

実験3

DNAをくっつけてみよう!

DNAを切ることができたら、くっつける事もできるはず!それは糸でも紙でもDNAでも同じことです。しかし、くっつける手段は、図工で使う“のり”ではありません。ここでも「リガーゼ」と呼ばれる特殊な酵素を用います。
「DNAを結合したりくっつけたりして何が面白いの?」そんな声が聞こえてきそうですが、「ある物質に弱い遺伝子を強い遺伝子に置き換える」、「病気の原因となる異常な遺伝子を正常な遺伝子に置き換える」。。。など、バイオテクノロジーの世界では必要不可欠な技術なのです。DNAを切る実験でも使った「マイクロピペット」を使って、本実験でも慎重に試薬を加えていきます。
酵素が気持ちよく働くことができる温度にDNAと試薬の入ったチューブを置き、30分待ちます。「ここまでの実験で、“酵素”がDNAの切断や結合を行うことはわかったけど、本当にDNAは切れてたりくっついたりしてるの?本当に上手くいってるのかな?」
そんな疑問・不安は次の実験の「電気泳動」で解決です。

実験4

電気泳動をやってみよう!

「DNAは思い通りに結合できているの?ちゃんと切断もできてるかな?」それを確認するのが「電気泳動」と呼ばれる手法です。まず、アガロースゲルと呼ばれる高分子ゲルの中にDNAを通します。DNAは固有の大きさ(分子量)と荷電を持っているので、電流が流れる「電気泳動装置」の中にアガロースゲルを入れ、DNAを通すと、DNAは分子量の違いにより、バンドとなって検出できるのです。UVランプの上で光を発するDNAのバンド確認します。果たして実験はうまくいったのでしょうか?
UV保護めがねを装着して、UVランプをのぞくと・・・・キラキラと光るDNAを確認!大成功に終わった実験で、受講者のみなさんも達成感でいっぱいだったようです。

主催者報告

化合物や遺伝子を扱う実験では、有機化合物や遺伝子の構造を直接目で確認することは困難です。本公開講座で行った遺伝子を用いた実験では、微量の遺伝子を用い、試薬などを混ぜ合わせ、試験管の中で起こっている変化について、最後に電気泳動による確認を行いました。可視化による化学変化を確認する作業は、子供たちへの理解を深めるための重要なポイントとなったようです。また、実際にサケの細胞から遺伝子を分離する実験では、当然らせん構造を見ることはできません。しかし、細胞の中に遺伝子が含まれていることを目で実感することができます。本公開講座の生物化学実験を通して子供たちの遺伝子工学への興味を深めるための一助となれれば幸いです。
(和歌山工業高等専門学校 野村 英作 先生)

ご指導いただいた先生方
和歌山工業高等専門学校物質工学科   楠部 真崇 先生 、 河地 貴利 先生、 米光 裕 先生、 野村 英作 先生

おわりに

今回の公開講座は、専門的な実験にも関わらず、「楽しかった」「興味を持てた」との意見が非常に多かったようです。
今まで教科書の中でしか知りえなかったDNAを実際に見たり、触ったりすることで、遺伝子工学の理解や興味を深めた受講生。この中から、"明日の科学者"が育っていくことを期待します。

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。