サステナビリティ

バイオの世界を探検してみよう
東京工業大学生命理工学部への招待

2006年度 第3回 公開講座応援団

東京工業大学生命理工学部 公開講座レポート

平成18年7月27日(木)~28日(金)の2日間にわたり、東京工業大学で、高校生の皆さんを対象にした特別講習会(公開講座)が開催されました。 東京工業大学生命理工学部は、バイオの時代を切り開く有能な人材を養成するとともに、世界トップレベルのライフサイエンス研究を推進するため、日本で初めての学部として創設されました。本公開講座は、ライフサイエンス分野の魅力を広く伝えるべく、21世紀を担う高校生の皆様にその面白さに触れていただくことを目的として開催されました。生命理工学部で、実際に最先端の研究をしている先生方から講義を受け、実験の指導もしていただけるたっぷりの内容です。 今回のテーマは、「タンパク質を結晶化してみよう」と「できる!手作り遺伝子。」の2つです。ライフサイエンスの中心的な存在である「タンパク質と遺伝子」。その未知なる物質に触れることで、バイオの不思議・面白さを体験できたのでしょうか?その様子をご紹介します。

生命情報専攻のプログラム

タンパク質を結晶化してみよう

このプログラムでは、糖分解酵素である“リゾチーム”の電気泳動と結晶化の生化学実験を行います。リゾチームは、風邪薬に欠かせない塩化リゾチームで知られているように、細菌の細胞壁の主成分である糖鎖を切断することで、細菌を殺してしまいます。
身近な素材である「卵」。卵の白身には、黄身を細菌から守るために大量のリゾチームが含まれています。
今回の実験では、この「卵」を用いて、実際にタンパク質を目で見る実験に挑戦します。

タンパク質を目で見てみよう

タンパク質の大きさは、通常の顕微鏡でやっと見える大きさ1μmに比べると、そのわずか1/100という大きさです。つまり、通常の方法では、タンパク質1個を見ることができません。それでは、どうすればタンパク質を目でみることができるのでしょうか?
その方法は、「SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動」という方法を用います。この方法を利用すると、タンパク質やペプチドを大きさによって分けることができ、集合したタンパク質を目で見ることができます。
タンパク質を目で見る原理の講義を終えて、いよいよ実験です。卵白抽出液とそこから精製したリゾチームをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析しました。ここで注意しなければならないのが、極めて微量の「マイクロリットル」という単位。これをきちんと量り取ることができるのが「マイクロピペット」です。 初めて手にする「マイクロピペット」の操作にちょっと緊張気味の高校生でしたが、実験はとってもうまくいったようです。

タンパク質(リゾチーム)を結晶化してみよう。

前の実験では、タンパク質の集合体を観察しましたが、生の姿はみることができないの?そんな疑問を解決するのが「タンパク質の結晶化」。タンパク質の生の姿を見るためには、タンパク質分子を規則正しく集合させて結晶ができれば、X線をあてて、分子の立体構造を決めることができます。
ここでは、蒸気拡散法という方法を用いて、タンパク質の結晶化実験を行います。結晶化したタンパク質を顕微鏡下で実際に見て触ってみました。
また、さらに結晶化したタンパク質の立体構造をコンピュータグラフィクスで観察し、その酵素活性がどのような分子構造から生まれてくるのかについての説明を受けました。
また、今回の実験では行われませんでしたが、タンパク質を結晶化した後、X線結晶構造解析によってどのような抗がん剤がデザインされるかを、上皮成長因子受容体を例にとったお話も伺いました。

ご指導いただいた先生方(生命情報専攻 濡木 理 先生、教務職員の方々、大学院生の皆様)

分子生命科学専攻のプログラム

できる!手作り遺伝子

「遺伝子」や「DNA」という言葉をきいて何を思い浮かべるでしょうか?遺伝子の物質としての正体がDNAであることは、最近では広く知られていますが、これは数多くの科学者たちの長年にわたる研究の末、ようやく発見された努力の結晶なのです。「遺伝子=DNA」が生命にとって重要なことや、DNAの物質としての正体がわかってくると、このDNAを生物の働きを借りずに、人間の知識と技術だけで作ってみたい!という新たな目標がでてきました。こうして発展してきたのがDNAの化学合成法の研究です。

今回の公開講座では、現在の最先端のDNA化学合成技術を使って、実際にヌクレオチドをつないでいくことを体験します。“最先端な技術”だからといって、高価な機器や特別な設備は必要ありません。ゴム風船を用いたシンプルな実験器具(左図)を用いて、遺伝子合成を行います。
DNAの化学合成の一番重要な部分を体験することで、遺伝子の研究を支える化学の力とこれらの分野を切り開いてきた先輩科学者たちの努力の結晶に触れることができました。

DNA(オリゴチミジル酸)の化学合成

DNAは、ヌクレオチドと呼ばれる小さな物質が多数つながってできる高分子です。今回の実験では、ヌクレオチドの中で、最も取り扱いが簡単なチミジル酸を選び、これを実際に化学反応によりつなげていくことを体験します。
DNAの化学合成は、用いる薬品の種類も多く、操作が煩雑なとても難しい実験です。
しかし、参加した高校生の熱心な取り組みによって、見事目的のタンパク質の合成を達成することができました!
また、化学反応でDNAを手作りした後は、DNAの二重らせん構造の分子模型を使って、実際にDNA構造を手作りしました。普段教科書などで見慣れているDNAの二重らせん構造も自分で模型を組み立てるのは、なかなか至難のようです。皆さんとても苦労したようですが、それ以上に楽しみながら、DNAの立体構造のの理解を深ることができたようです。
今回体験した「DNAの合成」と「二重らせん構造」。これらの知識を応用すると、最先端の生物学や医学の研究に用いられている合成DNAが作成できます。
ライフサイエンス分野の研究は、日々発展し続けています。今回参加された高校生が、大学に入って研究生活を始める頃には、DNAの研究はどのような展開を迎えているのでしょうか?このようなバイオの世界に触れたことをきっかけに、ひとりでも多くの科学者が育っていくことを期待しています。

ご指導いただいた先生方(分子生命科学専攻:清尾 康志 先生、大窪 章寛 先生、田口 晴彦 先生、大学院生の皆様)

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。