サステナビリティ

共生バイオ実験講座

2006年度 第3回 公開講座応援団

静岡大学農学部 公開講座レポート

平成18年8月26日(土)に静岡大学農学部にて公開講座「共生バイオ実験講座 I “植物の遺伝子を見る”」が開催されました。ライフサイエンスに興味を持つ高校生を対象とした本公開講座では、最近よく耳にする遺伝子組み換え食品や、ゲノム創薬、遺伝子治療などの知識を深めるべく、遺伝子組み換え技術を実体験します。初めて体験するバイオの世界。参加した高校生は、今回のテーマやライフサイエンスやについて、十分に考え、理解することができたでしょうか。その様子を、公開講座レポートにまとめました。

内容

遺伝子組み換え技術のキーワードでもあるゲノムDNA。今回の実験では、植物からゲノムDNAを抽出し、アガロースゲルで確認した後、PCR法によって増幅します。

実験1

DNAの抽出

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法は、現在、生物学の基礎研究分野に限らず、医学の臨床検査、食品に含まれる遺伝子組み換え作物の検査、法医学におけるDNA鑑定、古生物学でのDNA組成や動植物の系統分類学での種間分化や進化過程の解明など、多くの分野で盛んに利用されています。このようにPCR法は様々な分野に広く浸透した技術ですが、まず、調査対象となる材料からDNAを抽出することが前提となります。
細胞壁のない動物細胞は、組織が柔らかく、多糖類が少ないので、比較的簡単に抽出が行えます。しかし、植物細胞の場合はねばねばした多糖類やDNAを壊してしまうフェノール化合物を多く含むため、高度なテクニックが必要です。
今回の実験では、植物(シロイヌナズナ)のDNAを単離することに挑戦しました。
まず、シロイヌナズナをチューブにいれ、破砕棒(グリグリ棒)で葉っぱをつぶします。つぶした葉っぱにフェノール/クロロホルムを加えて、タンパク質を除去し、DNAを抽出します。初めて触るマイクロピペットに緊張しつつ、DNAが含まれる上清を注意深く取ます。その上清にエタノールを加えると・・・「白い糸」のようなものが出現しました!「これが噂のDNAか~」と初めて視るDNAに感動したようです。

実験2

アガロースゲル電気泳動

実験1で抽出したDNAを“アガロースゲル”と呼ばれる高分子に流し込み、DNAを確認します。
DNA分子は、アガロースの網目構造をくぐり、マイナスからプラスの方向に移動します。DNAは、リン酸基を持っているので、負の電荷を持ちます。電流によってアガロースゲルの中を移動するうちに、短いDNAは網目をくぐりやすく(引っかかりにくい)、長いDNAは網目をくぐりにくいため、移動の度合いにさができ、DNAがバンドとなって観察できます。

実験3

PCR反応

いよいよ、遺伝子組み換え技術の中心であるPCR反応の実験です。
PCR法は、増幅しようとするDNAの両端の配列に相補的なプライマーと呼ばれる短いヌクレオチドを用います。そのプライマーと耐熱性DNAポリメラーゼという酵素を用いて、3段階の温度変化を繰り返すことで、目的のDNAを数万倍に増幅できます。
ここで、ターゲットにしたのは、植物のDNAにコードされている Cab 遺伝子とRbcS遺伝子。Cab 遺伝子は、光合成の最初の反応で、クロロフィルを含み、光エネルギーを集める役割を担うタンパク質(集光性タンパク質)をコードしており、RbcS 遺伝子は、炭素固定反応の酵素をコードしています。
PCR用チューブの中に、実験1で抽出したDNA、各遺伝子を増幅するためのプライマー、dNTP(DNAを伸張させるための部品)、TaqDNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)、反応バッファー、滅菌蒸留水を入れて、反応を行います。「ちゃんと増えたかな~?」と不安を抱え、アガロースゲル電気泳動で確認すると・・・・見事、DNAの増幅に成功しました(右写真)☆

主催者報告

参加高校生の学年は1年生から3年生と様々でしたが、よく講習の内容を理解し、楽しく実験に取り組んでいたようです。植物や分子生物学、組み換えなどの最先端の研究内容にも興味深々のようで、講習後に質問をしてくる学生もいました。参加者の皆様には、サイエンスに興味をもらえたと私たちも嬉しく思います。
(静岡大学農学部 共生バイオサイエンス学科 分子育種研究室 本橋令子 先生)

おわりに

最先端の遺伝子組み換え技術に触れた参加者の皆さん。高校の授業から一歩踏み込んだ今回の実験は、はじめは難しく感じたかもしれません。しかし、先生方の丁寧な説明や、心のこもったわかりやすいテキスによって、よく理解し、楽しく実験ができたようです。このようにバイオの不思議や面白さに触れたことをきっかけに、ひとりでも多くの科学者が育っていくことを期待しています。

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。