サステナビリティ

体験!農業と食料・環境問題

2009年度 第6回 公開講座応援団

九州大学農学部 公開講座レポート

平成21年7月29日(水)~31日(金)の3日間,九州大学農学部附属農場において一般市民を対象とした泊まり込み形式の農業体験型公開講座「体験!農業と食料・環境問題」を開催いたしました.
本講座では,動植物,機械,圃場を教材にして,農業の役割,生産管理技術,研究などを体験と講義により研修し,私たちの生活及び次世代の生存に大きな影響を及ぼす農業の持続的発展,食料の安全と安心性の確保,農業が環境の保全と修復に及ぼす機能などに理解を深めることを目的としています.
肉や大豆の加工,果実の成熟のしくみ,野菜からのDNA抽出,搾乳など普段できない体験を通して,「農業と食料・環境問題」に対する理解・興味を深めることが出来たのでしょうか?その様子を公開講座レポートにまとめました.

オープニングレクチャー

不確かな食のメロディー - 農業・食料の国家戦略と食育

命を紡ぐ「農」は,食料を持続的に生産し,環境を保全して,文化を育んできました.ところが,近年の世界の食糧需給の逼迫,日本の農業の現状と異常とも言える食料輸入の増加によって,私たちの食の未来が不透明なものになりつつあります.また,私たちの側にある食文化も,食様式の急激な変化や資源循環型社会に対する認識不足などから発展の方向を見失いつつあります.私たちの食の未来を確かなものにするために,こうした状況を整理して,農業・食料の国家戦略の現状と食育の深化について概説しました.受講者にとって,生活に密着した身近な問題であり,皆さん興味深く聴いておられました.

ダイズの収穫と豆腐作り

豆腐作り実習の前に,ダイズの植物学的特性と栽培の歴史についての説明がありました.あわせて,最近話題になっているバイオエタノールを目的としたトウモロコシ生産の拡大と,それにともなう近年の世界的なコムギ,ダイズ等の作物価格の高騰に関する解説を行いました.
引き続いて,受講者の皆さんに豆腐作りの体験実習をしていただきました.豆腐が固まる原理についての解説を加えながらの実習で,参加者も興味津々でした.グループによって豆腐の固まり具合に違いがあり,夕食時にみんなで食べ比べました.

搾乳体験

1日目および2日目の午後の実習と夕食の間の自由時間を利用して,希望者を募り搾乳体験を行いました.「何名位の方が参加されるのだろう?」と思っておりましたが,受講者の全員が参加してくださいました.
初めは手で搾る方法を体験し,その後ミルカーをセットして搾乳しました.大きな乳牛の横での作業に,最初は皆こわごわしていましたが,作業を進めるうちにずいぶん慣れた手つきで搾乳する姿が見られました.

果実のしくみ

果樹の開花・結実,肥大・成熟に関する講義の後,ナシ果実の成熟にともなう成分変化(デンプンの分解程度)を「ヨウ素ヨウ化カリウム溶液」を滴下して調べました.さらに,果実糖度測定の原理について説明し.糖度計を用いて様々な果実の糖度を測定しました.また果実の種類によって糖度が大きく違うことや,果実の品質には糖度だけでなく酸度も大きな要素であることを実感することができ,果実の成熟の仕組みに対する受講者の方々の理解が深まりました.

おいしい肉を食べるには?

はじめに「牛体の特徴」,「牛の管理」,「牛肉」について講義形式の解説を行うとともに,現代の畜産業が抱える問題について提起し,それを解決するための最近の研究について紹介しました.これに引き続き,鶏の解体・食肉処理実習を行いました.この実習では,私たちが普段何気なく口にする食肉がどのようにして加工されるのかを実体験することにより,「食」という行為について再認識する契機となりました.実習の合間や食事の時間に受講生の方々とお話ししましたが,鶏の解体実習のインパクトがいちばん強かったようです.

遺伝子を見てみよう!

「遺伝子DNAとは何か?」や「DNA分析の農業的利用」について解説を行いました.その後,遺伝子の本体であるDNAの抽出を体験しました.コスモバイオ社から支援していただいたクイックスピン,ハイテックミキサー,マイクロチューブ,チップ,ラックなどを使い,ブロッコリーの花蕾からのDNA抽出に挑戦し,見事に全員抽出を成功させました.抽出されたDNAが見えるようになったときには,皆さんとても喜んでおられました.
実験終了後には,野菜(キュウリ)の接ぎ木の方法や目的についても学びました.

質疑応答

農業や食料・環境問題に関して普段疑問に思っていることや,今回の公開講座に関する疑問点について皆さんから事前に質問を頂き,それについて,回答や解説を行いました.地球温暖化等の環境問題,世界規模での食料価格高騰,食の安全・安心,循環型社会の構築,自給率の低下と農業後継者不足の問題など幅広い内容に関する疑問点について,参加者同士で意見交換・討議を行うとともに,専門的立場からの解説を行いました.

参加者の感想

今回の公開講座を通じて,参加された方々はどのような感想を持たれたのでしょうか?寄せられた感想文の一部をご紹介いたします.

  • すばらしい内容でした.特に実習はとても貴重な体験でした.先生方,スタッフの方々の熱意と思いやりがとてもうれしく,ありがたかったです.質問に対して1つずつ丁寧にすぐに回答いただいて,ありがとうございました.
  • はじめてのことにたくさん挑戦できて,とても楽しい3日間でした.今まで農業というと田畑で行うものというイメージが大きかったけど,今回さまざまな角度から農業に関わる方々を見て農業にもいろいろな面があるんだと思いました.この経験を生かして,よりよい進路選択ができるように,充実した毎日が送れるように頑張りたいと思います.
  • 講座の内容はとても良く,自分がしたことのない事と見たことのない事ばかりで,とても勉強になりました.食事は皆さんと作ったのでコミュニケーションも取れてとても楽しかったです.畜産の内容も分かりやすく説明してくれたので,いろんな事が分かりました.
  • どれも興味深い内容でした.家庭菜園のことでもいろいろな質問に対して丁寧なご回答を頂き,感謝しています.学生時代に戻ったような宿泊で,懐かしい感じでした.すべての先生方,他のスタッフの方々のお心遣い,我が家にいるようにくつろいで学び,有意義な時を過ごさせていただきました.トーフ作り,果実の仕組み,遺伝子を見てみよう,などとても良い経験をさせていただきました.仕上げにとっても美味しいソフトクリームをごちそうさまでした.
  • 自分たちで朝食作りや後片づけをするのは,他のメンバーとのコミュニケーションがとれ,とても良いことだと思いました.初めての体験ばかり,鶏と殺,トラクター運転とドキドキわくわく,果実の仕組み,遺伝子実験も興味深く,また次も参加できると良いなと思っております.
  • 公開講座の準備,大変だったと思います.わがままな私たち受講生に対して,温かくご教示くださった関係の方々に心からお礼申し上げます.現場で学んだことを生かして行きたいと思います.
  • 公開講座に初めて参加させていただき,鶏肉の実技等興味を持って時間を楽しみました.大変ありがとうございました.充実した誠実なご対応に,心から感謝いたします.
  • トラクターなど,非日常を味わわせていただけたことがとても心に残りました.九大の先生方だけでなく,実際の学生さんの取り組みなどを見せていただけたら,もっと嬉しいです.
  • スタッフの皆様の熱意が十分伝わってきました.食育について深耕できるようになったと思います.是非,リピーターになりたいと感じました.
  • とっても良かったです.あと子ども向けに冬休みにもやったらどうですか?

主催者報告

3日間の公開講座を通じ,私たちの食生活の基盤となる農業と食料・環境問題について理解を深めることができたように思います.本公開講座で得られた体験を貴重な財産としていただくとともに,地域や職場などでの今後の取り組みに活かしていただくことを願ってやみません.
本講座がきっかけとなり,今後の受講者と当農場との継続的なコミュニケーションに発展させることができれば,この上ない喜びです.

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。