サステナビリティ

バイオの世界を探検してみよう

2018年度 第15回 公開講座応援団

東京工業大学 生命理工学院 公開講座レポート

平成30年8月2日(木)~8月3日(金)、東京工業大学生命理工学院にて高校生を対象とした夏休み特別講習会「バイオの世界を探検してみよう」が開催されました。今年のテーマは「オートファジー発見の追体験~自分の目でオートファジーを観てみよう!~」「小さな生き物の大きな可能性~極限環境微生物とバイオテクノロジー~」の2つで、40名の高校生が受講しました。受講生の皆さんは実験の楽しさと重要さを実体験することができたのでしょうか? その様子をレポートにまとめました。

講座内容

テーマ1

オートファジー発見の追体験 ~自分の目でオートファジーを観てみよう!~

生命理工学院
中戸川 仁 准教授(他、中戸川研究室のメンバー)

実験1. 大隅博士によるオートファジー発見の追体験

当時の大隅教授の思考の軌跡を辿り、大隅教授がどのような経緯で実験の着想に至り、それをどのようにして実行に移したかを解説した後、大隅教授が目にしたものと同じ現象(オートファジーを起こしている生きた酵母細胞)を、実際に顕微鏡を覗いて自分たちの目で観察してもらいました。

実験2. オートファジー欠損変異体を探してみよう

大隅教授はオートファジーを発見した後、やはり顕微鏡を用いてオートファジーを起こすことができない酵母変異株の探索に挑みましたが、その“宝探し”のような作業もほんの少しだけ体験してもらいました。

実験3. 蛍光顕微鏡を用いたオートファジーの観察

蛍光顕微鏡システムを用いて、生きた酵母細胞内での細胞小器官や、オートファジーによる細胞小器官の分解(液胞内への輸送)を観察してもらいました。

担当教員の声

最後に、実験結果を解説、考察した後、大隅教授による発見がどのようにしてオートファジーの生理機能や疾患との関連の研究につながっていったかを概説しました。大隅教授は、「役に立ちそうだから」、「病気の治療につながりそうだから」、と思ってオートファジーの研究を始めたわけでないこと、純粋な好奇心に基づくシンプルな実験が大きな発見、発展につながっていったこと、このようにして築かれたオートファジーの研究領域は様々な学術的要素を含む豊かな拡がりを見せていることなどを伝え、基礎研究の面白さ、大切さを理解してもらえるように努めました。

空き時間を利用して、研究室の中も隅々まで案内し、今回の講習には使わなかった色々な研究機器の説明や実験の基本的な話などもしましたが、高校生たちはとても興味深そうに見聞きしていました。TAの学生達とも大学や研究室での生活など、色々な話をする時間が持てたと思います。ノーベル賞のメダルのレプリカを見学したり、大隅研究室の中を案内することもできました。運良く大隅教授に遭遇できた班もあり、総じて、参加した高校生にはとても良い経験、思い出になったのではないかと思います。このような機会を通じて、研究を身近に感じ、自分の手で新しい発見をしたい!と研究の世界に飛び込んでくる若者が出てきてくれれば、嬉しい限りです。

熱心にオートファジーを観察する高校生たち

熱心にオートファジーを観察する高校生たち

テーマ2

小さな生き物の大きな可能性 ~極限環境微生物とバイオテクノロジー~

生命理工学院
八波 利恵 准教授(他、中村・八波研究室のメンバー)

実験1. 洗濯洗剤に含まれる極限酵素の働きを調べる

極限酵素の1つであるアルカリ酵素の性質を調べました。アルカリ酵素は家庭用の粉末洗濯洗剤から抽出しました。5種類の洗濯洗剤から、それぞれアルカリ酵素を含むカプセルを集め、その中から酵素を取り出してプロテアーゼ活性を調べました。その結果をもとに、洗濯洗剤に含まれるアルカリ酵素の機能を比較しました。

実験2. 味噌中に含まれる極限酵素の働きを調べる

味噌に含まれる耐塩酵素の性質を調べました。まず、味噌から耐塩酵素を抽出しました。そして、抽出した耐塩酵素と市販の非耐塩酵素の活性を高塩濃度、低塩濃度下で比べることで両者の機能を検証しました。

担当教員の声

実験後には得られた結果を参加者の前で発表し、みんなで討論しあうという場も設けました。これからの学生さんに実験の結果をよく考え、そして自分の考えを他の人に伝えるということが重要で、かつ、そのことを楽しいと感じてもらいたかったからです。アルカリ酵素の実験では、他のグループの実験結果も踏まえて、5種類のアルカリ酵素を機能が高い順に順位付けしました。参加者がそれぞれ順位予想をたて、そして行った結果発表では大いに盛り上がりました。また、耐塩酵素の実験では、参加者の柔軟な考えを聞き、私をだけでなくTAも大きく刺激を受けました。発表者はだれも緊張した様子でしたが、きちんと目的・結果・考察を発表することができ、感心しました。また、聞いている参加者の姿はまさに真剣で、このような場を設けることが、より深い理解へと繋がったのではないかと思いました。

実験・討論後は、研究室見学を行いました。終了時間が迫っていたため、十分な時間はありませんでしたが、参加者は積極的に質問しながら見学していました。既にその時には参加者とTAがうちとけていたため、お互いに学生生活や研究室生活についても色々と話をしていました。

2日間とも猛暑日で、かなり大変だったと思いますが,参加者は,終始熱心にとり組んでくれました。この体験を通じて,科学の面白さ、バイオテクノロジーの素晴らしさを少しでも感じてもらえたのではないかと思います。この講習会がこれからの将来を考えるための貴重な体験になることを願います。

洗濯洗剤からアルカリ酵素が含まれるカプセルを取り出しました。ピンセットなどを使って、一粒一粒丁寧に取り出しました。みんな集中していました。

使用商品

公開講座でご使用いただいた商品をご紹介します。

参加者の声

  • 生物系の内容を大学で勉強したいと思っているので、貴重な体験ができて楽しかったです。生物の教科書にも酵素に関する実験や、それに使う実験器具が載っているけれど、普段学校ではあまり実験などはできないのでいい経験になりました。2日間ありがとうございました。
  • 普段体験できないことを経験することができ、よかったです!ありがとうございました。
  • 大学でしかできない実験をすることができてとてもいい経験になった。
  • 以前まではほとんど知らない分野でしたが学んでみるととても興味深い内容でした。実験1.2では、自分たちでグループのメンバーと話し合いながら、結果の意味について考えることができ、実験と思考の楽しさを知りました。
  • 実験ももちろん楽しかったですが、単に予想通りの結果を確認するのではなく、考察にウエイトがおかれていて、とても勉強になりました。目に見えないものが働いていることを実感できてよかったです。

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。