サステナビリティ

バイオの世界を探検してみよう

2014年度 第11回 公開講座応援団

東京工業大学 生命理工学部 公開講座レポート

平成26年7月31日(木)~8月1日(金)、東京工業大学生命理工学部にて高校生を対象とした夏休み特別講習会「バイオの世界を探検してみよう」が開催されました。今年のテーマは“がんを光らせる仕組みを学んでみよう!” “顕微鏡で観る細胞ワールド”の2つで、41名の高校生が生命現象の不思議について実体験しました。貴重な体験となった2日間の様子を紹介します。

プログラム1

がんを光らせる仕組みを学んでみよう!

生体分子機能工学専攻
近藤 科江 教授、門之園 哲哉 助教、口丸 高弘 助教

ホタルや海洋生物から発見されている発光酵素の遺伝子を、遺伝子組換えによって哺乳類細胞のゲノムに組み込むことで『光る細胞』を作り出すことができるようになりました。この技術は、最先端の生命科学研究にも利用されています。例えば、『光るがん細胞』は、生体内での居場所を外から見ることができ、がんの生態を調査したり、新しい薬の効き目を判断したりするのに大変役立っています。本実習ではホタル発光酵素の遺伝子を使って、基本的な遺伝子組換え技術について学びます。

今回使用する実験器具

  • マイクロピペッター&チップ
    マイクロリットル(μL:mLの1/1000)と呼ばれる非常に少量の液体を正確に量り取るための器具です。先端に使い捨てのチップを付け、ピストンで液を出し入れします。
  • 卓上マイクロ遠心機
    ローターに入れた1.5mLチューブを高速で回転させ、チューブ内の試料を沈殿させたり分離したりする機械です。
  • 電気泳動装置
    電圧をかけ、ゲルの中にある荷電した分子(今回はDNA)を電気的に移動させます。
  • 紫外線照射装置(トランスイルミネーター)
    電気泳動後のゲル内にあるDNAを観察する時に使用します。

実験の流れ

  • 実験1. 遺伝子を増やしてみよう
    ルシフェラーゼの遺伝子をPolymerase Chain Reaction法(PCR法)により増幅します。
  • 実験2. 遺伝子を切断してみよう
    ルシフェラーゼ遺伝子を制限酵素により切断します。
  • 実験3. 遺伝子を分離してみよう
    ルシフェラーゼ遺伝子断片を電気泳動により分離します。

プログラム2

顕微鏡で観る細胞ワールド

生命情報専攻
十川 久美子 准教授、深川 暁宏 助教

より理解を深めてもらうため、細胞のしくみ・細胞分裂・蛍光タンパク質などの予備知識について説明を行い、実験へとすすみました。

実験1.明視野観察による動物細胞の細胞分裂の観察

アフリカツメガエルの培養細胞を観察しました。細胞が分裂していく過程を、染色体の動きに注目しながら、中期、後期、終期における特徴を学びます。
さらに、アクチン繊維の形成を邪魔する薬剤「サイトカラシンB」を加えた時、微小管の形成を邪魔する薬剤「ノコダゾール」を加えた時、との細胞分裂を観察し、細胞分裂で重要な役割を果たしているアクチンと微小管の働きを確認しました。

実験2. 蛍光顕微鏡による蛍光タンパク質の観察

細胞の核内にある生命の遺伝情報を担う染色体。この染色体はDNAとヒストン(H2A,H2B,H3,H4)と呼ばれるタンパク質で構成されています。今回の講習ではヒストンのひとつ「H2B」というタンパク質にGFPを遺伝子工学的に融合させています。そのため、細胞の核内にある染色体が光って見えます。明視野に比べ、染色体の動きが確認しやすいので、分裂の様子を再確認することができました。
さらに、研究室で実際に使用している高感度蛍光顕微鏡を使い、ヒストンのRFP融合タンパク質と微小管結合タンパク質MAP4のGFP融合タンパク質を同時発現させたヒト由来の培養細胞を2色同時撮影し、観察しました。細胞分裂の鮮明な2色画像はとてもインパクトがあり、受講生から「おー」といった歓声が上がっていました。

実習風景

参加者の声

参加された皆さんは、今回の公開講座を通じて、どのような感想を持たれたのでしょうか?寄せられたアンケートの一部を紹介します。

  • 初めて、生きた細胞の分裂の様子を見て、とても感動しました。「生命の営みについてもっと深く知りたい」と今回の講習を通じて思うようになりました。
  • 組や班のメンバーとも、時間の経過とともに仲を深めることができました。
  • 電気泳動の仕組みを学校で学んでいなかったが、理解しやすく、他の制限酵素でも試してみたいと思いました。
  • 研究にさらに興味がわき、勉強にやる気が出てきたように思います。
  • TA(ティーチングアシスタント)や講師の方々が優しく丁寧に応対してくださり、スムーズに実験が進みました。
  • 普段はなかなか見ることができないものを沢山見せていただき、貴重な体験になりました。

このように、今回参加された皆さんにとって、充実した2日間となったようです。特に、勉強への意欲が増した、という方が多くいたことは嬉しい限りです。今回の体験がきっかけとなり、ひとりでも多くの科学者が育っていくことを期待しています。

主催者報告

今年も沢山の高校生の参加を得て、無事高校生のための夏休み特別講習会を終了いたしました。とくにセミナーを担当された近藤先生と十川先生、TAの大学院学生さん、そして生命理工学研究科の事務部の皆さんには準備や片付けも含め当日の実習指導、案内や連絡等のため膨大な時間を費やしていただき誠にありがとうございまし た。高校生に答えてもらった今回のセミナーの感想を拝読すると、実施した実験の説明が丁寧で分かりやすく、実験もとても面白く楽しくおこなえたという感想を多くいただきました。参加した 高校生の多くが、理系の実験に興味をもって貴重な体験ができたと思います。これを契機に将来バイオの世界に参画したいという希望をもってくれるように期待するばかりです。

最後になりましたが、本特別講習会を開催するにあたり、ご支援いただきましたコスモ・バイオ株式会社に深謝いたします。

生命理工学部長
関根 光雄

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。