サステナビリティ

未来の博士養成講座 ~実験編~

2018年度 第15回 公開講座応援団

博士教員教育研究会 公開講座レポート

全国でも上位の潜在的な学力を持つ秋田県内の高校生を対象として、最先端の生命科学の技術に触れる機会を作り、生命科学の面白さ、感動を伝え、科学に対して十分な興味を喚起するとともに、高度な知識と思考力を養成し、世界的に活躍することができる観察力・思考力を身につけた優秀な人材(未来の博士)を育成することを目的として行いました。その様子をレポートにまとめました。

講座内容

1回目

植物の分類と採集のしかた

はじめに1時間程度、植物の分類の基礎、学名のルール、植物の形態の特徴等についてパワーポイントを用いた講義を行いました。短い休憩の後、図巻の検索表の使い方について説明しました。次に4人一組の班をつくり、あらかじめ講師が採集しておいた植物を各班に配布し、検索表を用いて植物を同定しました。検索表を使った同定作業ははじめてという生徒がほとんどでしたので、1~2種の植物の同定作業に1時間程度を要しました。

2回目

高等植物のDNA鑑定(1) ~DNA抽出とPCR法~

第1回講座で用いた植物を材料として、植物細胞からゲノムDNAの抽出を行いました。そして抽出した植物ゲノムDNAを鋳型として、共通のプライマーを用いてPCR法を行いました。配列が異なるゲノムDNAを用いているので、同じ配列のプライマーでも結合する箇所が異なるので、異なる長さや種類数のDNAが増幅されてくるはずですが、その結果を見ることは第3回に持ち越しました。今回はPCR法をかけるところまでの実験操作と原理の学習を行いました。

3回目

高等植物のDNA鑑定(2) ~電気泳動による分析~

第2回講座でPCR法を行った結果の解析を行いました。方法としては、PCR産物をアガロースゲル電気泳動法にかけることによって、共通したプライマーを用いて増幅したDNA断片の長さや、断片数が異なることを確認し、それが鋳型とした各ゲノムDNAの塩基配列の違いに起因することを考察しました。また、電気泳動写真の分子量マーカーの写真から標準グラフの作成を行い、誤差の処理の仕方を学んだり、レポートの正しい作成の仕方を学び、科学者を目指すに当たって重要な能力の育成を学びました。

使用商品

公開講座でご使用いただいた商品をご紹介します。

核酸抽出試薬 CellEase® Blood/Plant (BIC#BCR11-00002)
全血・植物組織のDNA を短時間で分離

ディスクボーイ (KRB#FB-4000)
6,000~14,000回転まで可能な小型遠心機

参加者アンケート

1回目: 植物の分類と採集のしかた について

  • 自分たちで同定するのがとても難しく大変でしたが、植物の特徴を知ることができてよかったです。
  • 今まで図鑑などを見て学名についてよくわからなかったが、今回の講座で知ることができてよかった。
  • タンポポにも複数の種類があると気づけたのでよかった。

2回目: 高等植物のDNA鑑定(1) ~DNA抽出とPCR法~ について

  • やったことのない実験ができて楽しかった。貴重な体験ができたと思う。
  • 習っていないことばかりで最初は難しいと思ったけど、1つ1つしっかり聞いていくと少しは分かってきました。将来的にも役立ちそうです。
  • 大学レベルの実験をし、とても難しく理解できない部分もありましたが、実験の楽しさや考察の難しさを知ることができました。有意義な時間を過ごせました。ありがとうございました。

3回目: 高等植物のDNA鑑定(2) ~電気泳動による分析~ について

  • DNA鑑定はすごく難しかったですが、将来に役立ちそうだと思いました。しっかりと理解してレポートを完成していきたいです。
  • 学校では教科書を読んで終わりということがほとんどなので、今回体験できてとても貴重な時間となった。
  • 実験結果から考察するときに、PCR法や電気泳動などの原理を深く理解していなくてはならなくて、そこから応用して考えるのはとても難しいけれど面白いことだなと思いました。

主催者報告

第1回講座

植物種の確実な同定を行うためには絵(写真)あわせでは不十分であり、検索表を用いる必要があることをほとんどの生徒が知りませんでした。種同定の基本的な知識でさえも小中学校で触れる機会はほとんどなく、さらに高校の生物基礎、生物で扱われることもありません。身近なタンポポひとつを取り上げてみても、身の回りに生えている種は多くはセイヨウタンポポという名前であることは知っていても、総苞外片が反り返るといった形態的な特徴や、在来タンポポの現状については知らない生徒が大半を占めていました。こうした状況にあって、普段、植物の専門家も手にする検索表を使って植物を同定するということは大変難しい試みであるといえ、複数の班員で協力して行っても種同定には至らないであろうと考えていました。しかし実際には、時間を要したもののすべての班が2種の正確な同定まで辿りつくことができており、参加した高校生たちの潜在能力の高さに驚かされました。

受講者の声からは、検索表を使った植物の同定はとても難しいが、身近な植物を同定する方法を知ることができて良かった、将来やってみたいとの感想を得ています。野外での基礎的な植物の同定は、これまで大学の分類学の研究室が担ってきました。しかし今日では分子レベルの研究がほとんどになり、野外に出て若者に植物の形態のちがいを教えることのできる機関、人材が圧倒的に不足しています。本講座は高校生たちに基本的な植物分類の機械を提供するだけでなく、将来、高校生たちが野外での植物研究をおこなうきっかけになればと考えており、今後も継続して開催していきたいと考えています。

第2回・第3回講座

第1回で外見的特徴で分類した植物に関して、分子生物学的手法を用いて分類する(いわゆるDNA鑑定)を行いました。これにより、外見では類似していても、分子系統的には異なるいわゆる収束進化の例を体験できただけでなく、近年進歩が著しい分子生物学的手法の有効性を身を以て知ることができました。また、今回は、単に解析した生物種が異なるということを判別するだけではなく、PCR法や電気泳動法の実験の原理の理解を深められるような考察課題を課し、原理に根差して考える思考力の養成と、正しいレポート作成の仕方を学ぶことを行いました。近年のバイオテクノロジーの進歩に伴い、様々なキットが開発され、このような実験がごく簡単に行うことができるようになっています。その反面、溶液を混ぜるだけでも結果が出てしまうので、大学院生でも原理を理解せず、盲目的に実験を進めてしまうことで、実験がうまくいかないときにどのステップをどのように改善していいか自分で考えることができないような問題が生じています。将来、生命科学分野に進む高校生たちにこのようなことに陥らず、原理の原理を正しく理解し、試行できる真の研究者として必要な素養を身に着けることにつながったと感じています。レポートの作成に関しては、生命科学分野では論文のねつ造や盗用などの不正がたびたび問題になっています。今回の講座ではレポートや論文の正しい書き方、適切な引用や画像の取り扱いの仕方などを学び、将来、生命科学を含む科学の道へ歩むものとしての正しい態度を身に着けることができました。実際に生徒たちの提出してきたレポートはどこまでが明らかになっていることで、どこからが今回明らかになったことなのかを明確に区分し、引用を正しく行い、「背景・目的・材料・方法・結果・考察」の手順を踏んでマナーに則って記述していました。考察についても実験の原理を正しく理解し、原理に基づいて思考している姿勢が見られ、未来の博士養成講座としての教育効果は十分に得られたものと判断できました。

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。