サステナビリティ

高校生のための実験・体験コース
「ふれてみよう がん研究の最前線」

2006年度 第3回 公開講座応援団

愛知県がんセンター研究所 公開講座レポート

2006年8月18日(金)、愛知県がんセンター研究所にて高校生のみなさんを対象とした公開講座が開催されました。「ふれてみよう がん研究の最前線」をテーマに開催された本講座は、特に「がん研究」に関する実験を通じて科学の素晴らしさと同時に医学研究に関する興味と大切さを感じてもらうことを目的とします。

実験の内容

がん細胞を染色して観察しよう!

がんは様々な臓器(肺、胃、大腸、肝臓など)におこる悪性の腫瘍です。現在、個々のがんにおいて新しい治療法が開発されており、がんの治療において、どこの臓器から発生してきたものなのか同定することは治療を行う上で重要です。がんは時に色々な臓器に転移するため、発生した臓器を同定することが困難な場合があります。しかし、個々のがん(臓器・組織)特異的なタンパク質を免疫染色することで、そのがんの発生臓器・組織を同定することが可能となります。
そこで、今回の実験では、アスベスト(石綿)被害でよく知られている“悪性中皮腫”と“肺がん”の培養細胞を用いて免疫染色を行い、観察してみました。これらの細胞は色々な形をしているので形態だけでは悪性中皮種と肺がんの区別は非常に困難です。これでは適切な治療等を行う上で大きな問題となってしまいます。
しかし、各がんに特異的なタンパク質の発現を抗体を用いた免疫組織染色法を用いると悪性中皮種と肺がんを区別することが可能になるのです。免疫染色は、「抗体」の特異性を利用した方法で、その組織に特異的な抗体を用いて、発色操作をすることでそのタンパク質の局在や発現を顕微鏡で観察できるようになります。
悪性中皮腫に特異的なタンパク質「カルレチニン」の抗体と肺がんに特異的なタンパク質「CEA」の抗体を用いて免疫染色を行いました。染色された細胞を顕微鏡で観察すると・・・悪性中皮腫なら緑色に、肺がんなら赤色にきらきらと発光する様子が観察できました。はっきりと発光した細胞が見えたときには思わず「おぉぉ!」と感動の声が上がったようです。

初めて触る「マイクロピペット」。ライフサイエンス研究には欠かせない道具です

ピペット操作にもずいぶん慣れたようですね。

ピンセットを使ってそーっと操作します。

顕微鏡を使って細胞を観察。きらきらと光る細胞に感動の声があがりました。

実験の内容

染色体パズルをつくろう!

私達の体は約60兆個もの細胞からできています。それぞれの細胞の核の中にDNA(遺伝子)が入っています。DNAは私達の体をつくるのに必要な情報が書き込まれた設計図のようなものです。細胞が分裂をするとき、DNAは濃縮した形で、「染色体」という”ひも”のような状態になります。この染色体の数は生き物の種類によって異なっており、1つの細胞に私達ヒトでは46本(44本の常染色体と2本の性染色体)が存在しています。今回の実験では、ひとつの細胞から取り出して色素で染めた染色体の写真を使って、パズルに挑戦してもらいました。常染色体は同じものが2本ずつあり、その特徴によって、1番から22番まで番号がついています。性染色体は男女で異なり、男性の場合はX染色体とY染色体が1本ずつ、女性の場合はX染色体が2本です。がんになると、この染色体の数が変わったり、形が変わったりします。今回のパズルは正常な染色体でしたが、がんの染色体の特徴を調べることで、がんの原因を知る大きな手がかりとなるのです。「染色体ってなに?」説明のあと、いよいよパズル開始。大きな写真から染色体を1本ずつ切り取って、大きさ、形、染まり方の特徴をよーくみながら、どれとどれがペアになるのか、何番目の特徴にあてはまるのか‥息をつめながらの作業です。そっと紙にならべて、貼り付けて‥自分の体の60兆分の1のパズルが完成しました!

「染色体ってなんだろう?」そんな疑問をわかりやすい講義で解決です。

染色体の写真をチョキチョキ・・・・丁寧に切り分けます。

切り取った染色体をよーく観察して紙に並べて貼り付けます。

同じような形に四苦八苦。。。でも、出来上がったのは自分の体の60兆分の1のパズルの完成です!

研究の現場を見てみよう!

お昼休みや、実験の待ち時間には、研究所の研究室の見学も。研究の現場の空気にみんな興味しんしん。研究者の生の声を聞くことができて、みんな満足感とともに、さらに研究への興味ももったようでした。

参加者の感想

今回の公開講座を通じて,参加された方々はどのような感想を持たれたのでしょうか?寄せられたアンケートの一部をご紹介いたします。

  • 「実際にがん細胞を見ることで、興味がわき、関心をもつようになりました。」
  • 「今回の実験を通して、より医学に興味を持ちました。染色体の実験は、先生方がわかりやすく説明してくれたので、スムーズに進むことができ、よく理解することができました。将来、研究をしてみたくなりました。」
  • 「実験は難しかったけれど、はっきりと細胞が観察できた時は感動しました。」
  • 「講師の先生に興味深いお話をたくさん聞かせていただきました。今までわからなかった医療の現場の様子などのお話を聞いて、自分の将来を考える上でとても役にたちました。次回も是非参加したいです。」

このように、今回参加した皆さんにとって、とても良い体験になったようです。毎年参加されている常連さんはもちろんのこと、今回初めて参加した皆さんからも「来年もまた来たい!」との声も多く、本公開講座の目的でもある“科学の素晴らしさと同時に医学研究に関する興味と大切さを感じてもらうこと”は充分に達成できたのではないでしょうか?このような最先端のライフサイエンスの世界に触れたことをきっかけに、ひとりでも多くの科学者が育っていくことを期待しています。

主催者報告

参加した高校生からは、非常に好評な感想をいただきました。実験を通じて研究の素晴らしさを感じることができたばかりでなく、研究者と個別に対話することで、自分たちの進路に関しても色々と考えることができたようです。
(愛知県がんセンター研究所 分子腫瘍学部 部長 関戸 好孝先生)

私たちコスモ・バイオは、「ライフサイエンスの進歩・発展に貢献する」ことを第一の経営理念に掲げ、皆様に信頼される企業づくりを目指しています。この理念に基づき、今回のような、大学等が実施する公開講座の支援を通して、次の世代を担う“明日の科学者”にライフサイエンスの面白さと楽しさを伝えるお手伝いをします。